「人は思春期に感じたことに引きずられつつ生きていく」というのが、ホントかウソかよくわかりませんが、でも、40代の独身女性の妊娠(および妊娠を試みてやるセックス)に関する悩みを聞くにつけ、ホントなのかもしれないと思います。
現在40代の人が思春期のころ、たとえば高校生のころって、「女性は若いうちに妊娠・出産するのがいいことです」という世論って、ほとんどなかった。ときはバブルからバブル景気がはじけたころです。はじけたといっても、業種によってはその後2000年くらいまでは確実にバブルでした。
バブルのころの女性の妊娠・出産に関する世論って、キャリアウーマンという言葉にかき消されていました。つまり、女性は(短大ではなく)大学を出たらバリバリと総合職ではたらくのがかっこいいとされていました。
今となっては「はぁ?」ですが、たとえば広告代理店(その当時、花形だった)に就職し、総合職としてバリバリはたらいて、男性と肩を並べるか、それ以上に出世している女性像=みんなの憧れ、みたいな図式がありました。どこにあったのかといえば、たとえばテレビドラマにありました。
そのころのテレビドラマって、今思えばこれまた「はぁ?」ですが、トレンディードラマと呼ばれていました。つまり、キャリアウーマン=トレンディ、みたいな世論が大きくて、そういう図式のドラマがはやっていました。
このような時代に思春期を過ごしてしまえば、当然のようにその大きな世論に影響される人が出てきます。もちろん「わたしは短大を卒業して就職するけど、25歳までには結婚・妊娠・出産という流れをたどる」と決めていた人もいて、そういう人は現在、たとえば45歳でお子さんが20歳前後であるはずです。
バブル景気のころも今も、女性のカラダの構造は当然変わっていないわけで、つまり昔も今も「女性が産みやすい年齢」に変化はなく、であれば、むかしから「女性は20代のうちに妊娠・出産しないと、高齢になればなるほど妊娠・出産が大変になりますよ」というアナウンスがあってもよかったのではないか――今となっては、こう思う人もいるでしょう。「あんなにテレビドラマでキャリアウーマンをかっこいい女性像として垂れ流していたマスコミの罪は大きい」と言いたくなる人だっているでしょう。
この国は、なんでも「今さら感」で運営されています。
年金問題だってそうでしょう。今さら「みなさんに年金を払うお金がない」と国に言われても……と思っている人だっているでしょう?
高齢者が貯金しまくっているから、財務大臣が人々の財布を緩めるのに忙しそうにしていますが、これだって、「そうなると安易に予測できたこと」であるはずです。今70代くらいの人たちは、小学生のころ、学校に銀行員が来て、お小遣い貯金してましたからね。
国がまだ貧しかったので、微々たる額の子供のお小遣いさえも銀行に預けさせて、そのお金を国が工場や道路などをつくる原資に充てていたのです。子どものころに貯金体質にさせられてしまったら、高齢になってもその体質は残るわけで。
40代の独身女性のなかには、高校生のころ、「20代で結婚・妊娠・出産するなんて、そんなのヤンキーのすることであって、高学歴を狙うわたしはそんなことは絶対にしない」と思っていた人もいるでしょう。ヤンキーにとても失礼な話ですが、でも一部にはそういう風潮が確実にあったから、そう決意していた人もいるでしょう。
で、時は流れ、誰がヤンキーなのかパっと目にはわからない時代になり、妊活にいそしむ40代独身女性。
こんなことなら、学校や親に推奨されてこなかった恋愛にもっといそしんでおけばよかった、と後悔しても、現在40代。
キャリアウーマンという言葉と並んで、「自分らしく生きる」とか「わたしらしい人生設計」という言葉がもてはやされたのも、20年ほど前です。
あれって、いったいなんだったんでしょうね。
今さら妊娠とかわたしらしい生き方とかと言われてもな、と、しれっとしている人が増えても、なんらおかしくないと思いますが、それでもこの国は保育所を十分に整備することなく、不妊治療費補助を庶民感覚で納得できるほどに拡充することもなく「産めよ増やせよ」と言います。でないと、人口が減って国が困ると。
減るなら減るで、残っている人間だけでやっていこうぜ、そのほうが電車が(道が)混まなくていいじゃない。この国の言うことなんて信用できないし――「いまさら感」に飽き飽きしている40代独身女性のホンネって、案外こんな感じじゃなかなと思いますが、いかが?
Written by ひとみしょう