学生時代の夏祭りに、どんな思い出がありますか?子どもでもない、大人でもない微妙な年頃だからこそ生まれる甘酸っぱいストーリー。あの頃を思い出しながら読んでもらいたい、胸キュン妄想エピソードをご紹介します。
見慣れない浴衣姿に……
――今日は夏祭り。クラスのみんなで駅前に待ち合わせして、そこから出店をながめながら花火会場まで歩こうって話になっています。
お母さんに浴衣も着付けてもらって、準備はバッチリ。参加した女子は5人、そのうち浴衣を着てきたのは、わたしを含めて3人だ。
仲良しのAちゃんは「浴衣なんて着ないよ。あんな動きにくいもん」って言ってたから、わたしも普段通りで来ようと思ったのにさ。Aちゃんってばニヤッと笑って「あんたはちゃんと浴衣着てきなよ。アイツも来るんだし」だって。
――そう、今日はアイツも来る。同じクラスで、隣の席で、わたしが好きな男の子。まわりのみんなは「早くつき合っちゃいなよ!」って言うんだけど、両思いなのかどうかわかんない。嫌われてはいないと思うけど、何考えてるかわかんないんだもん、アイツ……。
「あ」
「あ!」
突然、アイツと目が合う。白いTシャツにジーンズ。ふつーの格好。でも制服じゃないの、なんか新鮮……。
「よお」と手をあげて、ぷいっと向こうを向いてしまう。いつもこうなの。ぶっきらぼうっていうか、そっけないっていうか……。
(せっかく浴衣着てきたのに、何も言ってくれない……)
なんかみじめだ。一人だけ張り切って、バカみたいじゃない。ムカつくから、自分からアピールしに行ってやる。
「ねえ、ちょっと」
腕を引っ張ってやったら、
「うわっ!」て。
なにそのオーバーリアクション。芸人か。
「……なによ」変な顔してこっちを見てるから、ますますムカつく。
「浴衣、着てきたんだな」
「あ、うん」
え、なになにその顔。
「その、いいんじゃないの?そういうのも……。髪もなんかいつもと違うし」
「編み込みしてきたの。浴衣に合うかなって思って」
「それいいな。俺、好き」
好き。すき、という響きが、ぐわんぐわんと頭の中を反響する。
「あ、りがと……」
おう、とアイツはそのまま友達の方へ行ってしまったけれど。なんだろう、今までにない雰囲気に落ち着かない。
「顔、あっつい……」
あつい。この夏の夜の熱気が、わたし達の距離をグッと縮めてくれたような気がする。
その手に触れられなくて
「あれぇ、Aちゃん、どこに行っちゃったのー?」
花火会場はすごい人混み。ちょっとよそ見をしたすきに、クラスメイト達とはぐれてしまったようだ。スマホを出そうにも、人の流れが激しくてごそごそできるようなスペースもない。
(とりあえず、人混みから抜け出さなきゃ)
そう遠くには行ってないはずだし、待っていれば迎えに来てくれるかも。そうのんびり構えていると、案の定人混みの中からからわたしを呼ぶ声が聞こえてきた。
……のは良かったんだけど。
(なんでコイツが来たの!?)
わたしを迎えに来てくれたのはさっきまで一緒にいた親友ではなく、片思いの相手だった。
二人っきりになれるのは、嬉しい。でもさっき(髪型を)好きと言われてから、なんだか知らないけどものすごく気まずいんだよね……!
「おまえ、こんなところにいたのかよ。あっちでみんな待ってるから、行くぞ」
「うん、ごめん」
今度ははぐれないように、彼の背中について歩く。同い年なのに、すごく背が高い。一年生の頃は、そんなに変わらなかったはずなのに。いつの間にか、背伸びをしても届かないくらいになっていた。
(キス、するときって、やっぱり背伸びしないと届かないかな……)
ふいに、そんな考えがよぎる。(って!何考えてるの!!)一人で赤くなっては、首をぶんぶんと振っている挙動不審なわたし。それに気づいた彼が不思議そうに振り向いて、
「なにやってんの。また迷子になるぞ?……ほら」
差し出された、大きな手。
「……え?」これはもしかして。
「あ!いや……」
何か重大なことに気づいたというように、彼は顔を赤くして、それから。
「おまえ、小さいからすぐ見えなくなるんだよ。はぐれないように、俺の腕でもつかんどけ」
そう言って、ぷいっと前を向いてしまった。
……腕。
(手を、つなごうってことでは、なかったのかな……?)
と、思ったのだけれど。その手に触れて振り払われてしまったら、ちょっと立ち直れそうもないので。とりあえず腕をぎゅっとつかんでおいた。
触れたてのひらからドキドキが伝わってしまうんじゃないかって心配になるほど、わたしの胸は高鳴っていた。
告白は花火とともに
ドーン。ドドーーン。
夏の風物詩とも言える音を立てながら、夜空に次々と花火が打ち上げられる。とにかく大きくて華やかなもの、カラフルなもの、ユニークなデザインのもの……どれも美しく、目が離せないでいた。
「キレイだねー」
「そうだな」
気づくと、隣には彼が座っていた。まぁ、まわりにはクラスのみんなもいるんだけど。
するとクラスのムードメーカー、というかお調子者のBくんが「おいみんな、これ飲んでみろよ!」とやけにはしゃいだ声をあげる。
見ると、パクチー味のコーラをなかば無理やりみんなに飲ませていた。
「うわっ、マズイ!」
「あれ、わりといけるね」
感想はそれぞれだったけど、わたしは混ざりたくなかった。
(間接キスだよ、それ。やだよ……)
気にしない子は気にしない、自分が自意識過剰だというのはわかってる。でも、生理的にイヤなものはイヤなんだ!
(好きな人以外と、たとえ間接だってキスなんて無理……!)という心の叫びむなしく、Bくんはわたしのところにもパクチー味コーラを持ってきた。
「ほら、お前も飲んでみろって!」
「わたしはいいよ」
「なんだよー、ひと口だけでいいからさ!」
うう。あんまり強く拒否するのも、なんだか空気読めてない感じになっちゃうし……。困っていたら、隣からスッと手が伸びてきて、
「じゃあ俺にくれよ、それ」
と、彼がコーラに口をつけた……と思ったら、そのままゴクゴクと一気に飲み干してしまった。
「んー、微妙な味。あ、おまえの分まで飲んじゃった。ごめんな」
わたしの方を見て、ニッコリと笑った彼に、そのままギュッと抱きついてしまいたい衝動に駆られた。
「……好き」
つい声に出た告白は、まもなくフィナーレという花火の音にかき消されてしまう。それで良かったような気もするし、残念だったような気もする。
でもきっとこの夏の夜が終わっても、わたしの恋は終わらない。大好きな彼と並んで花火を見上げながら、そう思ったんだ……。
おわりに
夏祭りのエピソード、いかがでしたか?筆者にも学生時代の胸がキュンとしたりグサッとしたりする思い出が、いくつもあります。
すでに彼と夏祭りの予定がある女の子は、思いっきり楽しんできてください。予定もなければ彼もいないよ~って女の子は、ぜひこの開放的になる夏に、新しい出会いを求めて動いてみては?人生変えちゃう出会いがあるかもしれません♡