フラれたときの心の痛み、というか、より正確には、フラれた後の心の痛みって、「痛い」という言葉を超えて、死にたい気分のことですよね。
その死にたい気分のことを、もっと正確にいえば、死にたいと思っても死ねない<死ねなさ>のことを、キルケゴールという哲学者は、絶望と呼びました。
ごく簡単にいえば、彼にフラれたあとの、あの「なんとなく痛い気持ち」や、「どうすれば失恋から立ち直れるのかわからない<わからなさ>」が、絶望なのです。
さて、今回は、フラれた後の心の痛みについて、一緒に見ていきつつ、失恋から立ち直る方法についてお届けしたいと思います。
1. 失恋したらなぜ哀しいのだろう?
ところで、失恋の後って、なぜ哀しい気分になるのでしょうか? フラれたから? フラれた後だから? まあ、たしかにそうなんですが、そういうことが言いたいのではなくて……。
失恋って、「ひとつになれないという事実」を、なにものかから突きつけられるから哀しいのです。大好きな彼とひとつになれない、その事実を、なにものかに明示されるから、失恋は哀しいのです。
わたしたちは、他人とつながれない世界に生きています。
たとえば、通りすがりの人と、あなたとは、決してひとつになることはないですよね。通りすがりの誰かに「ぼくと/わたしと、ひとつになってください」と懇願されても困ると思いますが、そういうことが言いたいのではなく、「ちょっと気になる人」とか「親友」とかとも、決してひとつになれないでしょう?
親友のことがどんなに(人として)好きでも、あなたとその親友とは、まったく別の場所で、まったく別の人生を生きるしかないわけでしょ?
そんなふうに、わたしたちは、日常的に「どんなにお気に入りの人とであっても、ひとつになれない<なれなさ>」を感じつつ暮らしています。
なれなさを「ちょっと哀しいこと」と思っているわたしたちは、彼氏ができて、その彼と物理的にひとつになれたら、だから喜悦します。もっとつながっていたい、明日もひとつになりたいと渇望します。
でも、たいていの場合、ふたりには別れのときがやってきます。
彼とひとつになってつながっていたのに、もうつながることができないの? 「やっぱり」わたしは誰ともひとつになれず、誰ともつながれないまま生きていくしかないの?
この、ストレスともいえる気持ち、これが、失恋の哀しみや痛みを、わたしたちにもたらすのです。
2. もっとも哀しい失恋とは?
では、その哀しみのなかで、MAXの感情とは、具体的にどのような別れがもたらす感情なのでしょうか?
これはいろんな答えがあると思いますが、ひとつには、彼に「すがるように」恋していた人が味わう別れでしょう。
彼と付き合っていたら、わたしはわたしの存在の不安を感じなくてすむ―― こういうことを考えて交際している女子っていますよね?
自分の将来が「なんとなく」不安、自分の生き様に「なんとなく」自信をもてない、だから彼氏とデートできない週は「なんとなく」不安だし、その不安がストレスだ…… こういう女子っているでしょ?
そのような女子が失恋したら、彼女は、端的に、絶望します。彼がいなくなった=彼にフラれた後だ、という理由で彼女は絶望するのではないのです。
自分の「この」人生を変えてくれそうだった人がいなくなった、すなわち、「別の自分」になることを夢見ていたのに、彼にフラれたことによって、その夢が泡と化してしまった、つまり、「別の自分=理想の自分」になれなくなった=自分に自信をもてない「この」自分を生きるしかない―― こう思って、彼女は絶望し、その絶望が、彼女の胸をきつく締めあげるのです。
3. 失恋から立ち直る方法
では、そのめちゃめちゃ哀しくて苦しい「フラれた後」に、わたしたちはどんなふうに立ち直るといいのでしょうか。
このことについても、キルケゴールという哲学者がすでに答えを出してくれています。
すなわち、今の「今性」に気づくと、失恋の痛みから立ち直れます、と。というと、今の今性ってなんですか、それ? と思いますよね。
以下に解説しましょう。
えっとですね、フラれた後って、フラれたことばかり考えていますよね。フラれた、というのは、過去のことですよね? ということは、フラれた後、わたしたちは、過去のことをずっと思い続けているといえますね? 言い方をかえると、フラれた後、わたしたちは、過去のある1点に心を縛られた状態になりますね。
たとえば、昨夜フラれたとしましょうか。それに対して、「今」は、たとえば、その翌日の午後ですよ。
繰り返しになりますが、フラれた人は、フラれた後、ずっと、フラれたという「過去のこと」に心が縛られている、ということなんですね。ということは、今この瞬間を生きていないと言えます。
今この瞬間とは、たとえば、友だちがあなたのために「失恋パーティー」をしてくれている、まさに今この瞬間のことです。「元気出しなよ。いい男子って、あの彼以外にもいっぱいいるんだからさっ!」などと言って、あなたのことを励ましてくれているのが「今」です。
その「今」において、あなたは、たとえば、「やっぱり彼しか見えない。彼なき世界は暗黒の世界だ!」などと嘆いているのです。ようするに過去に生きまくっていて、「今」を生きていないのです。
あなたがどんなにつらいときも、今という時は、絶えずやってきて去ってゆく―― ですよね?
すなわち、今という時は絶えず動いているのです。対照的にフラれた後の人は、過去という固定的な時を生きているのです。
動いている今を、過去という固定的に生きるというのは、そもそも原理的に無理があるのです。だから、苦しいし、彼のことを忘れることができないのです。
4. 人って常に変化している生きものだから
逆説的にいえば、つねに変化している「今」を「今」として生きれば、彼のことなんて、適当な時期に適当に忘れることができるのです。
そのためにはなにをすればいいのか?
新しいことをするといいのです。新しいことをしたら、「今」に気持ちが自然と集中するでしょ? たとえば、新しい環境で仕事をはじめたら、「今」に集中するでしょ? あるいは、恋愛でいえば、新しい人と話すといいです。
このご時世だから、リアルに会って話すのに抵抗がある人もいるでしょう。そういう人はV BARなど、オンライン飲み会に参加してみるといいです。
自分を新しい環境のなかに、みずから投げ入れてあげる―― これが、失恋の痛みを軽くする唯一の方法です。
なぜなら、人はつねに変化している生きものだからです。むろん、新しい環境に自分を投げ入れたからといって、すぐに失恋の痛みが消え去ってくれるわけではないですよ。
一般的には、交際した年月の1/3くらい経つと、しだいに失恋の痛みが消えると言われています。
さ ん ぶ ん の い ち も ! と思わなくていいです。嘆いていても時は自動的に前に進んでくれるから。だから大丈夫です。
※参考:鈴木祐丞訳・キルケゴール『死に至る病』(2017)講談社