突然変なことを聞きますが、みなさんは恋愛とオカルトの相性の良さにお気づきでしょうか。古くから人は、好きな人ができるとどうにかして自分に振り向かせたいと思って、占いをしてみたり、おまじないに挑戦してみたものです。また、恋愛にまつわる不思議な話というものは、それこそ世界中に山のように残されています。
僕はもうここ6年近く、世界の恋愛にまつわるオカルトについての情報を収集しているのですが、今回は北欧に伝わる妖精の登場する恋愛関連のお話を、ご披露してみましょう。
北欧地方においては、妖精は夢物語のキャラクターなんかではありません。実際に存在するものであり、日本の妖怪以上に現実味のある存在として認知されているようです。妖精を直接見ることができる人、見えないけど存在を確信できたという人、いないと思いたいけど実際に出くわしてしまった人、いろいろといるようです。
そして時には、そんな妖精の手を借りたことで、余計な気苦労を負う羽目になる者も実際にいたようで……。
ある田舎暮らしの青年は、非常にさもしい生活を送っていました。働けど働けど、一向に生活は楽にはならず、毎日お腹を空かせて暮らしていました。
だがあるとき、彼の家に老婆の姿をした小さな妖精が現れて、今後青年の家の門に住み着くと宣言してきたのです。さらに、今後は何か手に入れたら、その物の一番価値のある部分を門に捧げることで、青年を幸せにさせてやる、と持ちかけてきたのでした。生活は既に進退窮まり、これ以上の貧困などないと感じていた青年は、それを快諾しました。
かくしてこの日から、青年と妖精の奇妙な同居がスタートすることとなります。肉やら魚やら。青年が手に入れた物のほとんどは食料でしたが、律儀にも彼は、一番美味い部分だけを門に捧げ続けました。
すると妖精の言ったように、徐々に彼の人生は好転していきます。最初はろくな食事もできないほどでしたが、徐々に仕事も上手く行くようになり、気が付くとそこそこの生活を楽しめるようになりました。もちろん、生活が様変わりするなかでも、彼は決して驕ることなく、毎日何かを手に入れるたびに、妖精への貢物とすることを忘れませんでした。
あっという間に、この青年は大金持ちになっていました。そんなあるとき、青年は美しい女性と知り合い、短い交際期間を経て、結婚することを決めたのです。ところが妖精は、無茶な要求をしてきます。美しい女性の、顔の部分を貰いたいといってきたのでした。
そう、青年が知り合った女性もまた、妖精が引き寄せた幸運の一種。つまり青年の運によって出会った存在でもないため、相変わらず得た物として、一番良い部分を捧げろと要求してきたわけです。青年は拒んだのですが、妖精は受け入れませんでした。事情を知った婚約者は、ショックで泣き崩れてしまいました。
妖精が婚約者のもとを訪れたのは、その晩でした。ところが妖精は、婚約者を見るや絶叫を上げて「こんな醜い顔はいらない」と逃げ出しそのままいつも潜んでいた門を越え、家を逃げ出していったのです。
婚約者の女性は美しい容貌をしていたのですが、実はこのとき、散々に泣きはらした彼女の顔は、醜い老婆顔で妖精が驚くほど酷い形相になっていたのでした。妖精はその顔に衝撃を受けて、勘違いしていたというわけですね。
以来、青年の家に妖精が戻ることはなく、彼はそのまま最愛の彼女と結婚。妖精がもたらしていたようなあり得ないような幸運はもう訪れることはなくなりましたが、つつましやかで幸せな人生を歩んだと言い伝えられています。
現地では割とメジャーな言い伝えとして語り継がれているお話のようです。何かを得たら独占することなく、周囲の人々と共有するという意識も大事という、教訓めいた話になっているのかもしれません。
日本には妖精の話なんてのはそう多くありませんが、似たような逸話もないわけでもありません。機会があれば、そちらもご紹介してみたいと思います。
Written by 松本ミゾレ
photo by StephaniePetraPhoto