「眠りたいのに眠れない」「疲れているのになかなか寝つけない」と睡眠に悩みを抱えている人は少なくありません。心身の疲労を回復させるために必要な睡眠が十分にとれないのはつらいものです。
そこで本記事では、眠れない夜にとるべき行動についてご紹介します。
1. 不眠の原因を探ろう
自分に合った眠れない夜にとるべき行動を知るために、まずは眠れない原因を探っていきましょう。
不眠の原因はさまざまです。また不眠の原因は1つに限りません。以下で紹介する不眠の原因を確認して、当てはまるものがあれば積極的に改善していきましょう。
体内リズムの乱れ
夜更かしはもちろん、早番や遅番などの交代制勤務や時差などによる生活リズムの乱れが、不眠の原因として挙げられます。
心理的な影響
ストレスや心配事によって眠れなくなることがあります。
後ほど詳しく説明しますが「眠らなきゃ」と強く考えることがかえって不眠の原因につながることも。また音や光など、睡眠環境が気になって眠れなくなることもあります。
病気の影響によるもの
生活習慣病やうつ病などの症状が不眠につながることがあります。
病気にはさまざまな症状がありますが、例えば、かゆみや痛みを伴うものや頻尿を伴うものなどは不眠の原因として挙げられます。
寝れない時についとってしまう行動も原因かも
後述する「眠れない時にとってはいけない行動」でもご紹介しますが、眠れない時にとっている行動が不眠の原因になることもあります。
例えば寝酒は、はじめこそ寝つきが良くなったように感じられますが、アルコールの代謝産物アセトアルデヒドによる覚醒作用や利尿作用によって夜中に目が覚めてしまったり、眠りが浅くなったりします。
また眠れないからといってスマートフォンを見たりゲームをしたりするのも不眠の原因として挙げられます。
その他
寝る前にコーヒーや紅茶、たばこなどを嗜む人がいるかもしれませんが、それらに含まれるカフェインやニコチンの覚醒作用によって眠れなくなることがあります。
また加齢も不眠の原因として挙げられます。体内時計の加齢変化で、早寝早起きになり睡眠が浅くなります。
2. 眠れない夜にとるべき行動
ここからは、眠れない夜にとるべき行動についてご紹介していきます。
実践する際には、後述する「とってはいけない行動」と合わせてお試しください。
「眠らなきゃ」と焦らない
疲れているのになかなか眠れない夜、「眠らなきゃ」と思えば思うほど眠れなくなるといった経験はありませんか?
「眠らなきゃ」と思うとかえって寝つけない、ベッドに入ると余計眠れない、そんな日が続くと、脳が寝室やベッドを眠れない環境として認識してしまい、より眠れなくなることがあります。
眠れない時は、「眠らなきゃ」と思わない、眠ることを焦らないのが重要です。
Eテレのドキュメンタリー番組「ドキュランドへようこそ」で放送された『睡眠不足の科学 眠れぬ夜の解消法』で、専門家が不眠症対策として紹介したのは“寝ようと努力するのをやめる”「睡眠制限法」でした。
「睡眠不足の化学 眠れぬ夜の解消法」 – ドキュランドへようこそ – NHK
睡眠制限法は認知行動療法の一種です。認知行動療法は、ものの受け取りかたや考え方に働きかけて気持ちを楽にする心理療法の一つ。睡眠制限法は「短時間しか寝てはいけない」と決め、その時間眠ることができたら時間を増やしていく方法です。
あえて眠ろうとしないことで自然と眠くなるのを待つ、とも言えます。
眠れない時は「眠らなきゃ」ではなく、「一旦起きよう」と気持ちを切り替え、ベッドから出てしまいましょう。間接照明をつけて静かな音楽を聴いたり、本を読んだりリラックスするか、心配事や気になる事があって眠れないのであればそれらを片付けてしまうのも効果的です。
ただし、自然と眠くなるのを待つのが狙いなので、覚醒作用のあるカフェインやニコチンが含まれるコーヒーや紅茶、たばこを嗜むのは避けましょう。
スマホやパソコンから発せられるブルーライトによって脳が朝の光だと勘違いし、体が起きてしまうので、スマホやパソコンを触るのも避けましょう。
また「眠れない時、目をつむって横たわるだけでも疲労回復に一定の効果がある」と言われていますが、目をつむって横たわっている時、ネガティブな思考や「眠らなきゃ」「疲れをとらなきゃ」という考えが頭を巡るようであれば、一度起き上がって、ベッドから離れましょう。
自然な眠気がくるまであえて眠ろうとせず、リラックスすることをおすすめします。
リラックスする
「眠れない」を「眠れる」にするためには、リラックスすることも重要です。
血行や体温調節などをコントロールする自律神経は「交感神経」と「副交感神経」の2つに分けられます。
交感神経は体をアクティブに働かせる作用をもち、副交感神経は体をリラックスさせる働きがあります。そんな副交感神経の働きを高めることで、良質な睡眠をとることができます。
ただし、緊張や興奮ですぐに働く交感神経と違い、副交感神経はゆるやかにしか働きません。そのため、寝る直前に「リラックスする」を実践してもすぐに効果は表れないのでご注意を。
後述する「良い眠りのために意識しておきたいこと」とともに、就寝3時間前から副交感神経の働きを高める、すなわち眠るための体を整えておきましょう。
リラックスする方法は人それぞれ異なります。本記事では深呼吸と体の緊張やこわばりをほぐす方法をご紹介しますが、自分が一番リラックスできる方法があれば、それを実践しましょう。
<深呼吸>
深呼吸は自律神経を整えると言われています。特に、副交感神経は深く息を吐く時に強く働きます。
意識的にゆっくりと息を吐くことのできる「腹式呼吸」は、副交感神経を優位にし、体をリラックスさせるのに効果的とされています。なのでベッドの上に仰向けになり、全身の力を抜いた状態で、腹式呼吸をしてみましょう。
- 仰向けになる
→この際、脚は肩幅程度に開き、あごを引く。肩の力は抜き、両腕は体から少し離し、手のひらを上に向けた状態でだらんと伸ばす。体がベッドに沈み込んでいくイメージで力を抜く。 - お腹がへこむのを意識しながら、口から大きくゆっくりと息を吐く
- 息を吐ききったら、お腹が膨らむのを意識しながら鼻から息を吸う
- 2.3.を繰り返す
息を吐く時に副交感神経が強く働くので、息を吐く時は息を吸うよりも時間をかけて行います。
<筋弛緩法>
体をゆるめるリラックス法として「筋弛緩法」というものがあります。まず体全体に力を入れ、その後脱力するシンプルな方法です。
<深呼吸>の1.同様、体の力を抜いて仰向けになったら、体の部位ごとに5〜10秒力を入れては脱力するを繰り返します。
例えば手の場合、手をグーっと握ったらそのまま5〜10秒キープして、脱力します。肩は首をすぼめるようにして両肩を上げて、そのまま5〜10秒キープして、脱力。
顔の場合は、顔全体を顔の中心に集めるようなイメージで、口をすぼめ、眉や目や頬を顔の真ん中に集めるようにして力を入れて、脱力します。最後は全身に力を入れて、ゆるめます。
「体をゆるめよう」と意識してもなかなかゆるめられないものですが、一度力を入れると体がゆるむ感覚がよくわかります。
参考文献
3. 眠れない時にとってはいけない行動とは
次に眠れない時にとってはいけない行動をご紹介します。
眠ろうとする
先でもご紹介した通り、眠れない時に「眠ろう」と考えすぎると、逆に頭が冴えてしまいます。
眠れない時には、一度ベッドから起き上がり、体と心をリラックスさせて、自然と眠くなるのを待ちましょう。
寝酒をする
寝酒には寝つきがよくなるイメージもありますが、アルコールの利尿作用やアルコールが分解されてできるアセトアルデヒドの覚醒作用によって、眠りが浅くなったり、夜中にトイレに行きたくなって起きてしまったり、良質な睡眠を妨げてしまう可能性があります。
またアルコール同様、覚醒作用のあるカフェインを含むコーヒーや紅茶なども寝る直前には避けたいもの。飲むなら寝る4〜5時間前に。
スマホをいじる
「眠れない夜にスマホをいじっていて、結局夜更かししてしまった」そんな経験ありませんか?
スマホやパソコンの液晶画面から発せられるブルーライトは、睡眠を誘発するホルモン「メラトニン」の分泌を抑制する作用があると言われています。
またSNSやゲームに熱中することで交感神経が優位なままになるとますます眠れなくなります。
テレビ、スマホ、パソコンの使用は寝る1時間前に済ませ、それ以降は控えましょう。
4. 良い眠りのために意識しておきたいこと
「眠れない」と検索する人の中には、眠れない日にパッと眠るための方法を探している人も少なくないでしょう。しかし厳しいことを言うようですが、眠れないのには何らかの理由があるはずです。
良い眠りのためには、眠る直前だけでなく普段の生活から意識を変えていく必要があります。
生活習慣を整えよう
- 適度な運動
- 規則正しい食生活
- 栄養バランスのとれた食事
は良い眠りに限らず、健康的な生活を送る上で重要です。
朝、日の光を浴びるのも良い眠りには効果的。人の体内時計は1日25時間周期なのですが、強い太陽光でリセットされます。
そのため朝起きてすぐに日の光を浴びることで体内時計のスイッチを入れることができます。
また眠りを促す睡眠ホルモン「メラトニン」の分泌にも日の光は役立ちます。メラトニンは朝起きて14〜15時間頃から分泌が始まります。朝に日の光を浴びることで、夜眠る準備ができるのです。
日中の眠気には昼寝が効果的
夜眠れない日が続くと日中眠くなることがありますが、短時間であれば昼寝は推奨されています。
ただし昼寝で疲れや眠気を解消する場合には「昼食後から15時までに15〜20分程度」を守りましょう。それ以上寝てしまうと夜眠れなくなってしまうので要注意です。
ストレスを溜めない、解消する心がけを
ストレスは不眠の原因だけでなく、心や体の病気を誘発する可能性があるので、日頃からストレスを溜めない、解消する心がけをしましょう。
ストレスの原因から離れられるのであれば、その原因から離れて、ストレスを取り除くのが効果的です。離れられない場合には、自分に合ったストレス解消法を見つけて、ストレスを発散します。
散歩やウォーキング、ランニングなどのスポーツがストレス解消になれば、先で紹介した「生活習慣を整えよう」にもつながるので一石二鳥です。
もちろんスポーツではなく旅行や読書、料理などでもOK。自分が楽しめる趣味でストレスを解消してみてください。
いい寝具を選ぶ
良い眠りを求めているのであれば、寝具にもこだわりましょう。とはいえ、必ずしも機能性の高い高価な寝具を選ぶ必要はありません。
機能性や価格にこだわらなくてもいいので、「これでいいや」を避け、寝心地がいいと感じられる寝具を選ぶようにしてください。
参考文献
- 睡眠障害対処 12の指針|スイミン資料室|不眠・眠りの情報サイト スイミンネット
- 眠りの準備は朝から 体内リズムを調える3つのホルモン 朝日新聞 Re.ライフ.net
- メラトニン|e-ヘルスネット(厚生労働省)
5. 睡眠改善薬はおすすめしない?!
手っ取り早く眠れる方法を探している人の中には「睡眠改善薬」を求めている人もいることでしょう。
決して「睡眠改善薬は飲むな!」というわけではないのですが、良い眠りのためにこれらに頼ることはおすすめできません。
<市販の睡眠改善薬について>
市販の「睡眠改善薬」は
OTC医薬品※の睡眠改善薬の使用目的は「一時的な不眠の次の症状の緩和:寝つきが悪い、眠りが浅い」であり、寝つきが悪い等の症状が長く続いたり、数日毎に症状が繰り返し現れる場合は一時的な不眠とは言えません。
引用元:おくすりQ&A:睡眠改善薬 日本OTC医薬品協会
※OTC医薬品…薬局やドラッグストアなどで、医師による処方箋なしに、自分で選んで買うことができる医薬品
とあるように、“一時的な不眠”を緩和するためのもの。眠れないからといって毎日服用するのはやめましょう。
それから、作用が強まったり、副作用が増加する可能性があるので、アルコールやかぜ薬、解熱鎮痛剤等との併用はNG。もちろん医師から処方される「睡眠薬(睡眠導入薬)」との併用もNGです。
<サプリメントについて>
睡眠を改善するサプリメントもありますが、サプリメントはあくまでも「栄養補助食品」であり、薬の代わりにはなりません。
例えば睡眠ホルモン「メラトニン」は、欧米では睡眠改善薬等として薬局などで販売されており、日本でも並行輸入が可能ですが、メラトニンの作用には不眠症を改善するほどの効果はありません。
実際に服用してみたところ、多少寝つきが良くなったように感じられましたが、生活習慣や睡眠環境を整えることの方が効果的に感じられました。
日本医師会の健康食品・サプリメントへの注意喚起には
「健康食品」には、成分を濃縮していたり、医薬品の成分を含んでいるものも、多くあります。
効果を期待して摂り過ぎたりすると、危険性も増します。
また、服用している医薬品との相互作用で、思わぬ健康被害が発生することもありえます。引用元:「健康食品」・サプリメントについて|国民のみなさまへ|日本医師会
とあります。摂りすぎにも要注意です。
<ひどい不眠が続く場合には医療機関へ相談を>
”一時的な不眠”ではなく、寝つきが悪い、眠りが浅いなどの症状が続く場合には、医療機関を受診してください。
参考文献
6. まとめ
不眠の原因や眠れない夜にとるべき行動・とってはいけない行動、日々意識してほしいことについてご紹介しました。
心と体を休める睡眠を疎かにしないよう、普段から日々の生活を整えることを心がけましょう。