こんにちは。ライターや占い師のほか、恋活・婚活アドバイザーもしています、沙木貴咲です。
2016年に、ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS)において、夫は雇用主で妻は従業員という形の、就職としての『契約結婚』が描かれ、話題となりました。欧米、特にアメリカでは富裕層を中心に、契約結婚は当たり前のものとされています。
日本ではまだまだスタンダードとはいえないものの、その合理性や利便性に注目する人は増えているようです。そんな契約結婚の実態と、メリット・デメリットを深堀してみましょう。
ドラマ「逃げ恥」では、恋愛感情を持たない男女が家事を労働内容として提供するのに対して賃金を支払う、という契約を結んでいました。しかし、実際のケースとして多いのは、愛し合う男女が婚前に結婚生活に関する主義主張を認め合い、契約書を作成して取り交わすことだといえます。
契約書に盛り込まれる内容は、法律に違反しない限り、どんな内容でもOK! 妻と夫が認める内容であれば、何でも構わないのです。
・〇〇したら離婚する
・生活費の分担方法
・育児・家事・介護について
・お互いの呼び方
・離婚することになった場合、財産分与の方法
・離婚することになった場合、慰謝料の額
・結婚生活の期限(2年限定で結婚する。2年契約で都度見直し、など)
契約結婚で多いのは、「不倫したら離婚する。その際、不倫された側に有利な財産分与、慰謝料の額を設定する」ではないでしょうか。ほかにも、生活費や教育費、お互いの両親の介護を行う時の費用など、お金については具体的に契約するケースが多いといえます。
基本的には、自分が幸せな結婚生活を送るための条件を、口約束ではなく書面で取り交わし、トラブルが起きそうな場合も揉めずに済むように事前対応しておく、という感覚で契約書を作ることになります。
約2万円前後の費用で、行政書士に依頼をすることもできますが、自分で作成することも可能ですし、自作契約書も有効です。
・妻/夫になる人の氏名・住所・押印
・契約日(入籍日より前であることが有効条件)
・結婚における契約内容
あらかじめ夫婦の間で、結婚生活の内容や約束事を決める「契約結婚」ですが
契約結婚をするメリットには何があるのか、みていきましょう。
結婚をする時点では普通、ラブラブ状態が頂点に達していますから、夫婦ケンカをするとか、離婚しそうになるなどという状態は想像しがたいかもしれません。
しかし、どんなに熱烈に愛し合っていても、最高潮の愛情は3~5年で冷めてしまうもの。結婚生活を送る中で、恋愛感情は慈愛に移り変わっていくのです。
そんな中で、ちょっとした気の緩みが不倫に発展したり、配偶者への思いやりの欠如となったり、相互理解が薄れていったりして、夫婦間には問題が生じます。
どんなに「私たちはとても愛し合っているから、揉め事なんか起きるはずない」と思っていても、トラブルが起きる時は起きてしまうのです。
そういう場合、婚前契約を結んでいれば、淡々とそれに従って解決ができますし、問題を長引かせることもありません。契約結婚は、将来起こるかもしれないトラブルに対して、前もって対応ができるものなのです。
バイセクシャルの人が、同性愛の恋人を持ちつつも結婚して子供がほしいとか、同性愛者ではあるものの、結婚して家庭を築きたいといった場合、そもそも契約結婚を前提にお相手を探すケースがあります。
この場合、純粋な愛情はさておき、妻・夫の双方に契約結婚のメリットがある場合がほとんどです。
たとえば、男性も女性も同性愛者で、どちらも社会的立場や世間体を考慮して結婚を望んでいるケース。
恋愛状態から結婚に至る男女とは違う感覚でお互いを「人生のパートナー」と認め、それぞれが快適に家庭生活を送っていくための契約を結ぶ、という形になります。
たとえば、恋人として交際する中で、彼氏が浮気をしたり、借金を作ったりして、彼女側が迷惑をこうむっている場合、結婚後も同じ過ちを繰り返すのではないか? という不安がつねにつきまといます。彼氏が口でどれだけ改心したと訴えても、それは絶対ではないのです。
そのため、いわゆる『前科』のある相手に、結婚後に同じ失敗を繰り返さないよう釘を刺す、という意味でも婚前契約は有効だといえます。
もし、何かあった時でも、契約を交わしていれば自分に有利な対応をしてもらえますし、たとえ離婚するとなっても十分な慰謝料を払ってもらうなどして、損はありません。
契約結婚は、「まだ他人同士である婚前に契約を取り交わすこと」で成立するため、婚姻して夫婦となってから契約内容を取り消すことはできません。
夫婦になってから追加事項として取り決めた条件は、婚姻中でも修正・取り消しができますが、婚前に他人同士として交わした契約については、自分だけの意志で一方的に止められないのです。
ただし、不倫や別居などを原因に、実質的に夫婦関係が破たんしてしまった状態では、もはや他人関係に近いと見なされて、婚前契約も取り消しになる可能性があります。
とはいえ、婚前契約で「夫が不倫した場合、慰謝料500万円を支払って離婚する」という条件を盛り込んでいた場合、不倫を原因に夫婦関係が破たんしているなら、その条件を無効にすることはできません。
無効可能な内容としては、「夫が介護状態になったら、妻が責任を持って介護する」など、夫婦関係が円満でないと実現しない条件に限ってくるでしょう。
婚前に作成した契約を、後出しじゃんけんのように取り消すのは認められない、ということです。
そのため、契約結婚をする場合は、長い目で見て自分が実現可能な内容だけを契約に盛り込むことが大切です。少しでも違和感を覚えるなら、条件として盛り込まないとか、のちのち修正できるように、あらかじめ「取り消したい項目がある場合は、双方協議の上、合意のもと取り消すことができる」といった条件も加えておくと良いでしょう。
婚前契約は婚姻後の修正・取り消しが基本的に不可能ですが、夫婦となった後でも契約内容を修正・取り消せる場合があります。
それは、夫と妻が話し合い、お互いに同意したケース。
ただし、二人とも心から納得した上で合意しなければいけないので、「旦那が駄々をこねて面倒だったから、取り消したくはなかったけど、仕方なくサインした」ということは、のちに大問題に発展するかもしれません。
いったん署名捺印してしまえば、口で何を主張してもムリですし、後から「そんなつもりはなかった」と言ってもどうにもなりません。自分に不利な修正・取り消しは基本的にするべきではありませんし、納得できないことを配偶者から求められても受け付けないことが重要です。
婚前の契約書については、夫・妻になる当人同士が自作するのものでも有効ではありますが、きちんと法律を踏まえたものを作成するなら、法律事務所に相談してリーガルチェックをしてもらったり、行政書士に文書作成を依頼したりするのが確実です。
婚前契約は大体、離婚の条件や金銭について取り交わされることが多いので、夫と妻どちらも婚前契約の意義を理解していないと、「結婚する前から離婚とか、財産分与の話をするって、どういう神経してるの?」と思われてしまうかもしれません。
そのため、契約結婚をするなら、事前に夫・妻になる二人が婚前契約の合理性・正当性を理解するべきですし、契約に真摯に従う気持ちを抱くことが大切です。
自分あるいは結婚相手に浮気や借金を抱えるといった、家庭生活を破たんしかねない問題を抱えた経験がある。自分あるいは結婚相手が豊富な資産を有している、自分あるいは結婚相手の実家が資産家である。自分あるいは結婚相手に、婚前から明確なこどもの教育方針、介護方針がある。
こうしたことが存在するなら特に、のちのち揉めないように、専門家を交えた契約書を作るのが賢明だといえます。
ドラマ「逃げ恥」では、主人公と相手役の男性にはそもそも恋愛感情がありませんでした。それでも、契約結婚は成立しますし、法的にもまったく問題はありません。
とはいえ、ドラマを観ていた人の中には、「これって偽装結婚なのでは……?」と感じた人もいたんじゃないかと思います。
確かに、ドラマで行われた契約は、外国人女性が不法滞在にならないよう、夫婦になるつもりがない男性と金銭の授受を条件に婚姻関係を結ぶ、という違法行為に近いような気がします。けれど、「逃げ恥」のケースは、違法行為ではなく、法律上は夫婦とちゃんと見なされるのです。
じゃあ、不法滞在の偽装結婚とは、何が違うのか……?
それは、「法律上夫婦とみなされた男女が、同居しているかどうか」にあります。
そしてそもそも、婚前契約を結ぶうえで、当人同士に「夫婦として一緒に生活する意志があること」が重要なのです。
たとえ、家事を労働条件に金銭を授受する関係性であっても、夫婦というスタイルで日々の生活を送っていれば、契約結婚は成立するということです。
そのため、自由恋愛や同性愛恋愛を求めながら結婚の実態が欲しくて、適当な相手と婚姻届けを出したものの、その相手とは日常的な接点がなく、同居もしていないのであれば偽装結婚となってしまうでしょう。
契約結婚には、「契約期間」を設ける人も少なくなく、2年や5年などという期限を盛り込んでいることがあります。それは、2年後あるいは5年後に、何かしらの事情から離婚することを前提とした、期限付き結婚である可能性もありますし、結婚生活を数年おきに見直すために期限を設けているケースもあります。
人間の恋愛感情は長くても3~5年で落ち着いてしまうといいますから、婚前契約で数年おきに家庭生活を見直すというのは、実のところ合理的かもしれません。
「契約」というと無機質で愛がないように感じられる人もいるでしょうが、きちんと明文化して曖昧にしないほうが、実は配偶者や家庭を深く想いやっていることになるともいえるでしょう。
Written by 沙木貴咲