近年、「被害者ぶる人」が増えているといいます。
被害者ぶる人とは、「被害者は何をしても許される」という考えから、すぐに被害者ポジションを取ろうとする人のこと。時には自分の不備を棚に上げて他人に逆ギレするケースも。
こうした傾向は家族など近しい間柄だけに留まらず、会社など公的な場においても増加傾向にあるようです。
皆さんの周りにも「すぐに被害者ぶる人」はいませんか?彼らはなぜすぐに被害者ぶるのでしょうか?
今回は、そんな彼らの心理的メカニズムと対処法をご紹介します。
被害者ぶる人がそのような行動をとる理由として、3つの心理的動機があげられます。
最初にあげられるのが「防衛本能」です。
たとえば度重なる遅刻を指摘された社員が、遅刻を指摘してきた上司に対してパワハラ被害を訴えるようなケースでは、
「遅刻を認定してしまうと人事評価が下がる可能性があるため、上司を加害者にすることで遅刻の事実をなかったことにする」
という意図が隠れている可能性があります。
この場合、遅刻を指摘された社員の目的は「自分の人事評価を守ること」であり、「上司を貶めること」ではありません。
防衛本能にはオフェンス感情がなく、あくまで自分自身をリスクから守ることが目的です。
しかし、自分が被害者ポジションを取るということは、相対的に加害者を生むということでもあります。
ですから、間接的に他者の不利益を生んでしまう側面もあります。
また、遅刻を指摘された社員が同僚たちと上司の悪口や陰口をシェアして印象が操作されてしまうこともあります。
まるで「上司のパワハラが本当にあった」ような既成事実ができあがってしまうパターンも。
社員のこうした動きもまた自分を守るための防衛手段です。
多数を味方につければつけるほど加害者と被害者のパワーバランスが逆転し、「被害者が加害者をいじめるいびつな構図」が生まれやすくなります。
さらにこうしたケースほどいじめがエスカレートしやすいという側面も。
次にあげられるのが「承認欲求」です。
承認欲求とは
「自分は間違っていないことを証明したい」「自分が正しいことを多くの人に認めてもらいたい」
「悲劇のヒロインになって周りから同情されたい」「話題の中心になって目立ちたい」といった感情のことです。
後者の2つは「自己顕示欲」ともいいます。
さて、被害者ぶる人の状況はさまざまだと思いますが、被害者ぶる人の動機を深く掘り下げると、ほとんどの場合が上記4つにいずれかに該当するかと思います。
あるいは複数の動機に基づいて被害者ぶっている可能性もあります。
承認欲求の管理は、多くの人にとって重要なテーマであり課題です。
なぜなら、承認欲求を上手に管理できるようにさえなれば、人生に伴う大半の問題やトラブルが円滑に解決できる可能性が高いからです。
しかし人間は主観的な感情で生きています。
ですので、「正しくありたい」「人から肯定されたい」「ちやほやされたい」といった本能的な欲求を制御するには、それなりに人生経験を積まなければなりません。
一方で、承認欲求に基づいて行動する人は、逆に言えば「承認欲求さえ満たしてあげれば満足する」わけですから、扱いが非常に簡単な側面もあります。
最後にご紹介するのが「処罰感情」です。
処罰感情とは、わかりやすく言うと「嫌いな相手が処罰されることへの期待」です。被害者ぶる心理の中でもっともタチの悪い感情です。
先述した、遅刻を指摘した上司と指摘された社員のケースでは、社員が上司に対して何らかの処罰を期待している可能性があります。
その動機は本人のみぞ知るところです。
もしかすると普段から上司の振る舞いが気に入っていなかったのかもしれませんし、遅刻を指摘されたこと自体に腹を立てたのかもしれません。
または、単に上司のことが生理的に嫌いなだけかもしれません。
しかしいずれにせよ、被害者ぶる人の心理メカニズムにおいてこの「処罰感情」の解消がもっとも厄介であり、もっとも対処が求められる部分といえます。
さて、ここまで被害者ぶる人の心理として「防衛本能」「承認欲求」「処罰感情」をあげました。
ポイントは「いずれかの動機に基づいて被害者ぶる」わけでなく、これらの心理的動機が複雑に絡み合って被害者ぶる行動につながるということです。
ですから、被害者ぶる人に対処するには、これら3つへの対策法を知っておく必要があります。
被害者ぶる人の心理メカニズムを理解したところで、次は被害者ぶる人への対処法について理解を深めていきましょう。
被害者ぶる人に有効な3つの対処法をご紹介します。
もっともシンプルかつ有効な方法が「距離を置く」です。
もしあなたが「いつも被害者ぶっているあの人に一泡吹かせてやりたい」と思っているのなら、それはあなた自身が処罰感情に囚われてしまっている証拠です。
処罰感情は、被害者ぶる人と距離を置くというベターな選択を妨げる要因にもなりますので、しっかりと自分の処罰感情を制御しコントロールしましょう。
また、家族や職場の人間など
「相手と距離を置くのがどうしても難しい状況にある場合」
は、関係を断つのは無理にしてもできるだけ接点を減らすよう工夫するのがおすすめです。
法治国家日本において、民事トラブルにおける加害と被害は、相応の根拠や証拠をもって司法により判断されます。
つまり被害者ぶる人が本当に被害者なのかそうでないのかを判断するには、司法のシステムに則った根拠や証拠があればいいわけです。
たとえば本記事のモデルケースとしてあげている遅刻を指摘された社員と指摘した上司の関係において、社員のパワハラ被害は「上司がパワーハラスメントを行った証拠」をもって証明されます。
会社の立場としては、感情を介入せず淡々と証拠保全に努めるのが健全な姿勢です。
このように、客観的な対応は当事者の人たちに対し「あなたが加害者か被害者かを明確にする」という目的を持って行います。
そして、基本的に「被害者ぶる人=実際には被害者ではない人」は、自分の嘘がバレるのを嫌うのでこのような対応を求めません。
ですから、被害者ぶる人への対処法としてはもっとも効果的です。
ただし、この「客観的な対応(法律と照らした判断)」は会社や組織あるいは専門家が行うのが理想的です。
なぜなら非常に専門的な法律知識などが求められますし、個人が負うべき社会的責任の範疇を超えるケースが多いからです。
筆者が個人的にもっともおすすめしたいのが、被害者ぶる人を懐柔してしまう方法です。
どのように懐柔するかというと、「その人が被害を訴えたい気持ちを認め、感情的に寄り添ってあげる」だけ。
ポイントは「被害そのものを認めるわけではない」というところです。
「そんなことがあったんだ。それは嫌な思いをしたね」「大変だったね」と、その人の気持ちに寄り添ってあげれば、その人の防衛本能と承認欲求が高度に満たされます。
それ以上被害者ぶる必要もなくなるわけです。
過激なクレーマーになってしまう人などは、このように防衛本能や承認欲求が満たされる機会がないため、鬱積して爆発してしまうのかもしれません。
さて、では被害者ぶる人が処罰感情を持っていた場合はどのように対応するのが望ましいでしょうか?
答えは「客観的な対応」です。
つまり「労働組合に相談してみたら?」「弁護士に相談してみたら?」とアドバイスするのです。
あるいはもう少し具体的に「自分が手配してあげる」「自分が取り次いであげる」まで言ってみてもいいかもしれません。
被害者ぶる人が本当に被害を受けていない限り、大半のケースにおいて被害者ぶる人の処罰感情は、この「客観的な対応への進言」で鳴りを潜めるでしょう。
ただし、その人が本当に被害を訴えたいと思っている場合、あなたは取次役としての責任を果たさなければならなくなります。
なので、面倒事を避けたければ言葉を選んだ方がいいかもしれません。
今回は、被害者ぶる人の心理メカニズムと対処法についてご紹介しました。
被害者ぶる人の心理をひも解くと、彼らの心の奥には
「誰かに認めてもらいたい」「誰かに優しくしてほしい」「誰かに労わってもらいたい」
といった感情があることがわかります。
筆者はかつて小売業に参画した時、「クレーマーほど自社商品のコアなファンになってくれる」というユニークなセオリーを発見しました。
被害者ぶる人とクレーマーの動機や感情はとてもよく似ているのかもしれません。
自分の不満や話を否定せずに聞いてくれ、感情に寄り添ってくれる相手にこそ、彼らは心を開いてくれるのです。
そう考えると、被害者ぶる人が愛おしく見えてはきませんか?
Written by はるお